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身近な司法をめざして


司 会 吉岡英子(事務局−ニュース担当)
弁護士 荻原典子 可児康則 田原裕之 原山剛三

 2000年11月20日に、司法制度改革審議会から司法制度改革に関するする中間報告が出されました。そこでここでは、裁判所や弁護士を身近に利用するために何が必要かを4人の弁護士に語ってもらいます。

司法研修所の現状
司会 トップバッターとして、一番お若い可児弁護士に司法研修所の現状について語っていただきましょう。
可児 私は、2000年4月初めに司法研修所を出たのですが、率直に言ってあまり楽しくはないところでした。
司会 それはどういうことなのでしょうか。
可児 はい、研修所では、実務家としての知識などを身につけさせるために、裁判や弁護、検察の講義があり、起案(判決文や起訴状、弁論要旨などを書くこと)などをします。実務家になるための研修ですから、これは良いのですが、ただ、そればっかりで、いわゆる社会問題などについて関心を持ったり、議論したりできるような講義などが殆どなく、その意味であまり興味が持てなかったのです。私としては、研修所にはそういった問題も取り上げて欲しかったと思います。
司会 そうですよね。生きた社会の実情を知らない法曹が社会に出ることは、国民にとっても望ましくないことですものね。
可児 それから、私のクラスの刑事裁判の教官が「法曹は人の上に立つエリートである 」と言っているのを聞いたことがあります。自分で自分のことをエリートだなどという人を見るのはこのときが初めてだったのですが、どことなく研修所のエリート教育偏重を感じることもありました。また、研修を終えた修習生の任官問題ですが、最近は裁判官の任官希望者が多いため、年齢の高い裁判官希望者に対しては裁判教官らが非公式に裁判官を諦めるように説得するのですよ。
司会 それと、女性修習生の任官について問題があると聞いているのですが。
可児 検察官の採用が問題です。各クラス1名しか女性を採用しないという女性枠があるというのです。法務省が性差別を行っているとも言える現状ですね。
司会 修習期間が2年だったのが1年半になりましたが、何か弊害がありますか。
可児 ええ。修習生が各期で1人くら死亡していると聞いています。カリキュラムがきつくなったことによる過労死あるいはストレスが原因の死亡ではないかとも言われています。いわゆるロースクール構想などもありますし、研修所が今後も存続するかは分かりませんが改善しなければならない課題は多いと考えますね。 弁護士報酬の敗訴者負担制度
司会 中間報告では、弁護士報酬を敗訴者に負担させる制度を基本的に導入すべきとしているようですが、この点について荻原弁護士のご意見は?
荻原 私は、大反対です。こんな制度が導入されたら、必ず勝てる事件しか裁判は起こせないことになってしまうでしょう。また、商工ローンや信販会社から訴えられた人は、相手方弁護士の費用まで負担させられることになるんですよ。
司会 そうなると、裁判所が国民から遠い存在になるんではないかしら。
荻原 そのとおりだと思います。今でも裁判を起こすには相当勇気が必要でしょう?勝敗が微妙な事件こそ裁判所の役割が重要なのに。そのような場合に裁判を起こせなくなってしまいますからね。
司会 消費者訴訟や行政訴訟なども起こしにくくなるんでしょうね。
荻原 もともと勝ち目はうすいけれど、交渉ではどうにもならず何とか事態を打開するための裁判や社会に問題提起するタイプの裁判は到底起こせなくなってしまいますね。
司会 敗訴者負担の例外はないのでしょうか。
荻原 中間報告では「労働事件、少額事件など敗訴者負担制度が、不当に訴えの提起を萎縮するおそれのある一定種類の訴訟は例外とすべき」としています。でも例えば消費者訴訟をするのは難しいという意見が既に出ています。医療過誤や公害、環境、行政事件なども敗訴者負担制度の下では裁判はおこせなくなってしまいますね。
司会 では、どうしたらよいのでしょう。
荻原 私は、一律に敗訴者負担制度を導入するのではなく、各当事者負担を原則にしながら判例の積み重ねや個別法規の改正を通じて交通事故の損害賠償訴訟や株主代表訴訟、住民訴訟のように、原告勝訴の場合のみ敗訴者に負担させる訴訟類型を広げるのがよいと思いますね。

刑事事件について
司会 刑事事件について田原弁護士にお尋ねします。今回の中間報告ですぐれている点はありますか。
田原 被疑者に対する公的扶助制度の導入が提言されていることは評価します。刑事事件については現在の法律では、必ず弁護人をつけなければならず、費用がないときは国選弁護人が選任されることになっている。しかし、起訴前にはそういう制度がないので、法律扶助協会が「被疑者扶助」の制度を作って、法の不備を補っているのが現状。被疑者扶助を提言したことは、長年の弁護士会の運動が実ったもので、大きな進歩です。「誰でも刑事弁護が受けられる」ということも、「身近な司法」を実現する上での大きな要素となると思います。
司会 陪審、参審制度についてはどうでしょうか。
田原 「身近な司法」という場合、国民、市民が司法の内容にどれだけ関与できるかという側面も重要だと思う。その意味で、刑事事件における陪審、参審制度は大きな意味があるよね。陪審は有罪無罪について陪審員が評決する制度、参審制度は参審員が意見を述べる制度。アメリカでの経験は、国民が司法に積極的にかかわっていく壮大な教育の場になっていると評価されているんだね。中間報告でも、「広く一般の国民が裁判内容の決定に主体的、実質的に関与していくことが必要」と述べているのは評価できる。

弁護士を身近にするために
司会 最後に、一般の人から見た「弁護士」について原山剛三弁護士に語っていただきましょう。
原山 弁護士は近づきにくいものと思われているようだ。気軽に何でも相談出来るし相談料も決して高くはないことを理解してもらうことが重要だね。それと、弁護士が親身になって共に考える姿勢を持つことも、とても大切ではないか。「よく話を聞いてもらえた」との思いはそれだけで安心感をもてるし、弁護士への信頼もそこから芽生えるのではないかね。
司会 プライバシーの配慮も大切ではないでしょうか。
原山 全くそのとおりだと思うよ。相談に来る人の身になって見直さないとね。うちの事務所では、夜間相談を毎週木曜日に持つことにしたが、これも一つの試み。休日相談も検討課題だろう。少々しんどいが共同事務所だからこそ出来る条件があるのだから。
司会 最近、事務所に中学校の生徒が見学に来ましたよね。
原山 2つの中学校から生徒の訪問の機会があった。子ども大人を問わず社会見学してもらうことはいいことだね。裁判所傍聴も組み込んで、弁護士の仕事や役割を直に知ってもらうともっといいと思う。
司会 みなさん、有り難うございました。最後に何かいい足りなかったことありませんか。
田原最終答申は、2001年6月頃とされている。私たちも不十分な点を批判し、積極的に提言していかなければならないと思う。新聞やテレビでも時々報道されてるので、読者の皆さんにも関心を持っていただければ幸いです。

                                  おわり