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労働者委員任命取消・損害賠償請求訴訟判決

弁護士 前田義博


 1989年に総評が同盟に合流して連合を発足させた際、これに反対した労働組合が全労連(愛労連)を結成した。折りしも愛知県では地方労働委員会の委員の改選期にあたり、連合の支持を受け、連合の路線を好ましいと考えた鈴木礼次知事(当時)は、7名の労働者委員全員を連合系労働組合から任命し、愛労連系労働組合を排除した。このえこひいき任命の取消と損害賠償を請求した訴訟の判決が99年5月12日にあった。結論的には原告敗訴だったが、判決は末尾につぎのような注文をつけた。 「現に差別を受けている現場の労働組合や労働者が、対立している系統の労働組合が推薦した労働者委員を全面的に信頼することができないのは無理からぬものといえる。また、労働組合運動において運動方針を異にする潮流・系統が存在する以上、労働者委員の構成においても多様性を有することが望ましい」「独立の行政機関である地方労働委員会の労働者委員の任命は政治的であってはならないが、政治的であるとの疑問が生ずるだけでも問題であり、これを防止するためにも任命基準の作成、公表が有益である。当裁判所は、愛知県知事に対し、今後の労働者委員の任命に際し、より多くの労働組合及び労働者に支持されるような更に合理的な選任方法を検討されることを望むものである」  労働委員会に救済を求めるのは、労使協調をスローガンにする連合系より愛労連系その他の労働組合・労働者が多いから、信頼できる労働者委員がいないという現状は著しく不利である。また、自分を支持する者や自分に都合のいいことを言う者ばかりを重用する政治であってよいのかという、全県民に影響する民主主義の問題でもある。
 6回目の改選期である99年12月には弁護士出身の神田真秋知事が裁判所の要望を受け入れるよう、多くの県民の声を集中させる取り組みを行った。残念ながら従来通りの任命となったが、今後とも右の判決を武器にして、地労委労働者委員の任命が公平に行われるよう努力を続けたいと思う。

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