命あるかぎりたたかい続ける
   〜えん罪名張毒ぶどう酒事件第七次再審請求の意義
 
                        弁護士 稲垣 仁史

   
 
  2002年4月8日,最高裁は,名張事件第六次再審請求における特別抗告を
 棄却しました。不当な決定ですが,手を拱いているわけにはいきません。
 我々弁護団は直ちに第七次の再審請求を申し立てました。
 これまでの事件の流れと今回の再審申立の意義を確認しておこうと思います。
 
 事件は,昭和36年3月,三重県名張市葛尾の公民館で開かれた地区住民の懇親会
 において,振る舞われたブドウ酒に農薬(テップ剤)が混入されており,これを飲んだ17名
 の女性全員が中毒となり,うち5名が死亡した,というものです。
 公民館にブドウ酒を運んだ奥西勝さんが犯人として疑われ厳しい取り調べの結果
 「公民館で一人きりになった際,ブドウ酒の内蓋王冠を歯で噛んで空け,農薬ニッカリンT
 を入れた」という「自白」をしてしまいました。
 
 裁判では奥西さんは一貫して無実を主張しました。
 この事件では,関係者の供述が,ある時点を境に一斉に奥西さんを犯人とする方向に
 変更されているという非常に不自然なものであったばかりか,唯一の物証とされた
 「内蓋王冠についている傷痕」についても,奥西さんの歯によるキズかどうか四つの鑑定が
 黒白真っ二つに分かれていました。
 一審津地裁は正しく無罪の判決をしましたが,控訴審で新たに黒白二つの鑑定が出され
 名古屋高裁は黒鑑定を採用し逆転の死刑判決を言い渡し,昭和47年に上告も棄却
 され,死刑判決が確定してしまいました。
 
 その後も,奥西さんは一貫して無実を主張し,独力で4回にわたり再審を申し立てました
 がすべて棄却されました。
 
 第五次再審請求からは日弁連が全面支援し,弁護団によって,控訴審判決が有罪の
 大きな根拠としていた王冠傷痕の黒鑑定のウソを明らかにした新鑑定を提出するなど,
 確定判決の不合理な点をいくつも明らかにしました。
 しかし第五次での最高裁は,本件王冠の特殊な構造を理由としてそれまで検察官も主張
 していなかったような独自の事実認定を行い,特別抗告を棄却しました。
 
 第六次再審請求では「奥西勝には犯行機会がなかった」ことを裏付ける第三者供述の
 存在が記されている「事件当時の捜査本部長が記した捜査ノート」を新証拠として提出
 しました。それとともに弁護団は,事件当時のブドウ酒王冠を正確に複製して再現実験を
 行い,裁判所の認定の誤りを明らかにする証拠を準備してきました。
 ところが裁判所は,弁護団の証拠の完成を待つことなく極めて短い期間であっさりと
 第六次の再審請求を退ける決定を出してしまいました。
 
 この度の第七次再審請求においては,第五次での最高裁の独自認定が誤りであったこと
 を明らかにした「複製王冠による実験結果」を新証拠としてまず提出しています。
 その他これまで準備してきた奥西さんの無実を裏付ける証拠をいくつも提出していきます。
 特に「ブドウ酒に入っていた農薬は実はニッカリンT以外のテップ剤であった」ことを最新の
 分析技術によって明らかにできる見込みが出てきています。
 
 既に事件発生から40年以上,死刑判決確定からでも約30年もの年月がすぎています。
 弁護団では,これまで準備してきたものの集大成によって何とか今回の再審請求において
 奥西さんの再審無罪を勝ち取ろうと,日夜努力し力を結集しています。

 皆様のご支援をお願いいたします。

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