この国はどこへ向かおうとしているのか
    −最近の新法・法改正状況   弁護士 福井悦子
   
 
一 六月六日、ついに有事三法が成立した。
国民の強い反対のもとで二度にわたり継続審議となりながら、最後は民主党との
「修正合意」により国会議員の九割の賛成を得ての成立であった。
@アメリカの戦争に参戦・協力するための法案であること 
A在外公館もしくは「周辺事態」等に対する武力攻撃のみならず、そのおそれ・予測の
  段階で発動されること、
B自衛隊が海外に赴き武力行使すること、
C自治体等の「指定公共機関」、そして国民が根こそぎ戦争動員されることなど
  有事三法案の問題点は「修正」によって何ら変わっていない。
  にもかかわらず国会議員の九割が賛成をする有様をみて、朝鮮有事が夢や
  そら言ではなくすぐそこに迫ってきていると痛感せざるを得ない。


二 それに先立つ本年三月二〇日、世界中の反対を押し切り、米英軍による
イラク攻撃が始まったが、その同日、中教審は教育基本法「改正」の最終答申を出した。
この偶然は象徴的である。
教育基本法は平和憲法とともに生まれた。
その目的は「人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者」となる国民の
育成である(同法第一条)。
しかし有事法制をもって国民に戦争協力義務を課しても、国民が戦争に
反対していたのでは困る。
「国を愛する心」「公共心」を持った国民を養成しておかなければ戦争協力は期待できない。
「心の有事法制」を作るための改正−それが教育基本法改正の狙いの一つである。


三 さて、さらに六月二七日、労働基準法が「改正」された。
その目玉は有期雇用期間の三年への延長である。現行の一年であれば、
労働者がやっと慣れてきた頃期間が到来するので使用者は契約を更新せざるをえないが、
更新を何回か繰り返せば期間の定めのない雇用契約と同視出来る状況になり、
雇い止め=解雇には正当事由が必要となる。
しかし、三年だと一回更新されても有期雇用のままであり、期間満了による「雇い止め」に
正当事由は不要となる。
派遣法の製造現場への導入・上限の一年から三年への延長とあいまって、
わが国の基幹産業の労働者全体に不安定雇用形態が広がるおそれがある。
 そこで、もう一度教育基本法「改正」の中教審答申に目を転じてみると、
教育は「先行投資」であって、「効率性」が要求されるとの理由で、
エリートに対しては十分に予算をさいてエリート教育を行うが、
そうでない者には教育予算を「スリム化」してそれなりの教育をすればよいとしている。
現行法は教育の平等性を保障しているが(同法三条)、
それを改め差別と選別を持ち込もうというのが、教育基本法改正のもう一つの狙いである。
一九九五年に発表された日経連の「新時代の日本的経営」による労働者の仕分けに
応じた教育をなそうというのである。


四 戦後五七年。この国は今大きく舵を切ったのは間違いない。
いったいどこへ向かおうとしているのだろう。
 しかし、自分が生きている国である。傍観はしていられない。
教育基本法改正案の今国会提出は見送られたが、また出てくるのは確実である。
国民保護法制の制定もこれからである。
あきらめず、たゆまず悪法反対運動を続けていこう。

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