名古屋刑務所事件から刑務所改革へ 弁護士 田原裕之
   
 
 ご承知のとおり、平成十三年から十四年にかけて、名古屋刑務所で受刑者が死亡、
重傷を負う事件が起きていたことが昨年十月に発覚しました。
この件については、加害者が起訴されて、刑事裁判が進められていますし、法務省本省の
役人や当時の名古屋刑務所長以下の職員が更迭されたり、懲戒処分を受けています。

 この事件の衝撃は大きなものでした。わが国の刑務所で人権侵害が相次いでいることに
ついては、弁護士会も人権侵害の警告を出してきていました。
しかし、刑務官が保護房に収容した受刑者に革手錠をかけ、死に至らしめるなどということが
起きているとは考えてもみなかったからです。

 この事件を契機に、法務大臣は、「刑務所の中の常識と国民の常識に開きができていた。
刑務所制度を一切の聖域を設けず、抜本的に改革する。」との見解を表明し、そのためには
「国民の意見を広く聞く」として、「行刑改革会議」を発足させました。
この会議には、法務省に批判的な刑事法学者や前日弁連会長、オウム事件で有名になった
江川紹子さんなども参加しており、従来とは違った法務省の姿勢もみられます 。

 私は、この行刑改革会議の日弁連バックアップ会議の副座長を仰せつかることになりました。
刑事裁判で有罪判決を受けた人が刑務所で、二度と犯罪を犯さない人に立ち直って出所する
ことは国民の安全という観点からも大事なことです。
「悪いことをした人は厳しく処遇してたたき直す」という風潮もあります。
しかし、受刑者が人間として尊重されてこそ、受刑者ももう一度立ち直ろうという意欲を持つ
のではないでしょうか。
人が人として扱われなければ、一層卑屈な人間になってしまうおそれがあります。
受刑体験のある人は、「刑務所では人間扱いされなかった」と言っています。

 受刑者の更生と安全な社会の実現のためにはどのような刑務所にすることが必要なのか。
皆さんの関心と議論を期待します。

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