『最高裁判決に思うこと』   弁護士 佐久間信司
   
 
 もと名古屋市長らを税金の無駄使いと訴えた住民訴訟の最高裁判決が先月あった。
提訴後一四年も経つのに「裁量権の逸脱・濫用の点と損害額の審理をやり直せ」と名古屋高裁に破棄差戻す判決だった。
これはまるで水入りの相撲を取ったのにもう一番取り直せというような判断だ。迅速な裁判という要請に逆行する判決だ。
 
 それにも増して問題なのは,デザイン博覧会協会(デ博協会)の赤字回避を目的に名古屋市がデ博協会から多数の中古物件を約10億4000万円もの高額で買ったことを認めながら,最高裁がデ博協会の赤字を名古屋市が補填することが不合理でない余地があると判断した点だ。
名古屋市が予算措置も講じてなかったのに,急遽必要性もない物件を価格の相当性を吟味することもなく購入したのはデ博協会の赤字を補う他事考慮によるものであるのに,最高裁はデ博協会が名古屋市の記念行事を市から委任され行った面があるから裁量権の逸脱・濫用がないかのような判断をした。
法令解釈の統一を図るべき最高裁が市長の売買契約に対する裁量権の逸脱濫用の判断基準を示すことなく高裁に差し戻したのは最高裁の任務放棄の誹りを免れないのでなかろうか。
また最高裁が自治体に甘いこんな判断を示すと,第三セクターや外郭団体が行ったイベントが赤字になった場合,安易にそのツケが自治体に回され今まで以上に税金の無駄使いが行われる危惧を感じる。
売買代金額と目的物の価値の差額(これが損害額)がデ博協会に残った2億1000万円を超え,もと市長らの賠償額が更に拡大する可能性があるとはいうものの,最高裁の判断はお役所に甘い問題のある判断だと思う。

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