『高層マンション日照被害と住民運動』
−太陽光採光システム設置の画期的和解− 弁護士 原山剛三
   
 
1 事件の概要
  紛争の対象となった建物は、名古屋市東区1丁目の地下1階地上17階建の店舗・事務所(賃貸)及び共同住宅(分譲)を擁する高さ60メートル、巾員80メートルのビル。商業地域及び中高層住居専用地区に指定された地域だが、豊かな緑に恵まれ、低層の住家が連なる。太陽と空を奪われ、巨大構築物の圧迫には耐えられないと、4世帯11人が巨大デベロッパーを被告に建物の一部の建築禁止と5250万円の慰謝料の支払を求めて、02年7月提訴した。04年3月建物が竣工し、分譲マンションへの入居が始まったので、建築差止請求を取下げ、太陽光採光装置を原告ら敷地内に設置する費用として、約1億5000万円の代償請求を提起。近隣住民への被害を予見しながらマンションを購入・所有するのは、共同不法行為にあたるとして、入居者2名に対する慰謝料請求も併せて行った。

2 和解内容
  04年10月、裁判所の積極的な関与もあり、和解が成立。太陽光採光システム「ひまわり」の設置費用を含む和解金を被告は支払うこととなった。「ひまわり」は太陽を自動追尾しながら採光し、光ファイバーで各家庭に伝送し、端末照射器により光を放出する。紫外線、赤外線はカットされるが、熱をもつ自然に近い光と言われている。充分な償いとはとても言えない僅かばかりの慰謝料でお茶を濁されてきた感のある日照事件において、太陽の光を確保したことの意義は極めて大きい。本件が先例となって、各地の斗いに役立つことを期待したい。

3 成果をもたらしたもの
  後藤徹設計士をはじめとする専門家の貴重な助言や協力はかけがえのないものであり、各地の被害住民との交流や共同の行動も有益だった。特筆すべきは、原告住民の3年間にも及ぶ本当に粘り強い奮斗である。雨の日も風の日も倦むことなく街頭で、建設現場近くで、ビラを配り、プラカードを立て、街行く人に被害を訴え続けた。訴訟の資料や証拠も工夫しながら進んで作成し、裁判所へ熱く語りかけた。このような被告を圧倒する絶ゆまぬ不屈の努力がなかったならば、和解を手中にすることはできなかったであろう。運動の抑圧を目的としたビラ配布等禁止の仮処分命令申請を2度にわたって却下させたことは、運動を持続させ発展させるうえで決定的であった。02年7月5日の第1次決定は、社会的弱者の生きる権利を実現するための表現活動の重要性を憲法の奥深いところでとらえた優れたものである。憲法判例集に登載される価値をもつその格調高い憲法判断は、原告住民の心に確信の芽を植え付けたに違いない、と私は信じている。

 

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