■ 06新春座談会「自民党新憲法草案を受けて」 
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弁護士 原山剛三
弁護士 福井悦子
弁護士 川口 創
事務局 岩本 学


  自民党新憲法草案の特徴

【岩本】 昨年10月、自民党が新憲法草案を結党50周年記念で正式に決定しました。
      この特徴などを簡単にご指摘頂けますか。

【原山】 一番大きな点は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
      国の交戦権は、これを認めない」という九条二項を削除して、九条の二を新設したことでしょう。
      その一項で「自衛軍を保持する」と軍隊をもつことを明記し、三項で自衛軍の活動を「国際社会の
      平和と安全を確保するための活動」にまで広げていることは、重大です。
      自衛軍を海外に派遣し、戦闘行為や武力行使を出来るようにしようというものです。
      「専守防衛」に徹し、集団的自衛権の行使は許されないというこれまでの政府の態度を根本から
      変換するもので、戦争放棄の平和憲法を葬り去るものと考えます。
       他方、「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有する」
      とする前文や「自由及び権利には責任及び義務が伴う」とする一二条は、国防の義務を国民に課そうと
      するものです。
      国民の動員なくして戦争の遂行はできないのですから、人権や自由への制限についても注意を払わ
      なくてはならないと思います。

 明らかに自衛隊の性格を変える草案

【岩本】 現憲法のもとでも自衛隊が存在しているという矛盾をこの期に解決して、むしろ自衛隊の行動を縛る
      ためにも憲法でその存在を明記した方がいいという声もありますが、いかがでしょうか。 

【福井】 自民党草案で自衛隊の行動が縛られるということはありえません。
      現在の自衛隊は、海外で武力を行使することは認められません。
      イラクに行っている自衛隊が、武力行使できないのは九条二項のしばりがあるからです。
      ところが草案によれば、「国際社会の平和と安全を確保するため」海外で武力を行使できます。
      草案は単なる現状追認ではなく、明らかに自衛隊の性格を変えるものです。

 背景にはアメリカの圧力が

【岩本】 ところで、自民党がこの時期にこういった草案を出してきた背景には何があるのでしょうか。

【川口】 2000年10月に米国防大学国家戦略研究所がいわゆる「アーミテージレポート」の中で、
      「日本が集団的自衛権を禁じていることが両国の同盟協力を制約している」として以来、米国が日本に
      厳しく九条の「改憲」を突き付け始めました。
       米国は米軍と日本軍を一体化させて、世界中で軍事行動が出来るようにさせることを戦略目標と
      しています。この制約となっているのが九条なため、早期の九条「改憲」を日本に強く迫っているのです。

 現憲法は平和外交を実現する羅針盤

【岩本】 自民党の草案と比較した場合、現憲法の特徴は?

【原山】 権力が法に従い、専横に走らないようにするためにこそ憲法があるのです。
      権力の横暴の最たるものが戦争と言えるでしょう。
      現憲法は、アジアと日本の民衆に多大な惨禍をもたらした戦争の反省のうえに戦争放棄を高らかに
      宣言したもの。
      諸国家・国民の協力と協同で平和を保持し、国際紛争は非軍事的措置によって解決するのを原則とする
      国連憲章の精神からいっても、現憲法の先駆的価値の大きいことを実感します。

【川口】 今の憲法の価値は「個人の尊厳」、つまり「一人ひとりを大事にする社会を創ろう」という点にあります。
      そして、「戦争をする国は人を大事にしない」ことを、私たちは学びました。
      だからこそ、人権尊重と戦争放棄を謳う憲法を私たちは持ったのです。
      ところが、今の日本政府は、憲法の理念に逆行し、世界中に戦争を仕掛けるブッシュ政権に最も追従
      しています。
      このような時だからこそ、世界中の多くの国との現実的な平和外交を実現する羅針盤として、今の憲法の
      価値が発揮されるべきときだと思います。

 これから求められることは

【岩本】 憲法を守り、活かす立場から、今後私たちにどのようなことが求められるでしょうか。

【福井】 国民一人一人が、声を上げ、自分で出来る活動をすることが必要です。
      私達は憲法九条二項のおかげで、今まで60年間、我が子を戦場に送る心配をしないですみました。
      しかし、改憲となれば我が子が戦争にとられるかもしれない。
      私は母親として、いてもたってもいられない気持ちですが、そういう気持ちはみなさん共通ではないでしょうか?
      しかし、黙っていたのではダメ、九条を変えてはならないと声をあげましょう。現在「九条の会」は全国で
      3000を超えました。まずお近くの九条の会に入りましょう。

【岩本】 名古屋第一法律事務所も、「あいち九条の会」の事務局やイラク訴訟の事務局などをしていますが、
      平和運動の拠点の一つとしての役割が今後ますます求められているということですね。
      本日はありがとうございました。



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