■ 教育基本法「改正」案・国民投票法案、そして共謀罪      弁護士  福井悦子
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先の通常国会には、憲法の理念の根幹に関わる、あるいは改憲の露払いともいうべき重要法案が相次いで上程され、いずれも継続審議となりました。いずれの法案についても、政府・与党は、重大な決意で早期成立を目論んでいました。先の国会での成立を断念させた国民の世論と運動には確信を持ってよいと思われます。
  しかしながら、重要なのはこれから。この秋の国会でのこれらの法案の動向を左右するのは、この夏の運動です。あなたも反対の声をあげて下さい。

教育基本法「改正」案

「改正」案は、いろいろな問題を含んでいますが、一番の問題は次の2点であると思われます。

@ 10条2項の削除・10条1項の変更・行政権力への「基本計 画」策定権付与
現行法10条2項は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し、直接責任を負って行われるべきものである」との同条1項を受けて、教育行政の役割を、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立に限定しています。これは、戦前の教育の国家支配に対する深刻な反省から生まれた条項であり、教育においては、その内容および方法まで含めて、自主性・自立性が、あらゆる国家権力との関係において尊重されなければならないという規定となっています。
  ところが、「改正」法案は、この10条2項の規定をあえて削除し、1項の「国民全体に対し、直接責任を負う」という部分を「法律の定めるところにより行われる」と変えています。そして、更に、政府と地方公共団体に、「教育振興基本計画」策定権を付与しています。しかし、これでは、「教育目標」の達成計画、達成度評価、予算配分などを通じて、行政権力に、条件整備を超えて、教育内容に対する介入権を認めるに等しい結果となります。教育とは文化的価値の伝達過程であり、多数決原理にはなじみませんが、「改正」案は、政党政治の下で多数決原理によってなされる国政上の意思決定に教育を全面的にゆだねることになりかねません。

A 憲法の保障する精神的自由の侵害
「改正」法案前文第2項は、「公共の精神を尊び」「伝統を継承」する教育を推進するとし、第2条は、「道徳心を培う」「伝統と文化を尊重し、」「わが国と郷土を愛する」ことを教育の目標として掲げています。
しかし、「公共の精神」とは何か、何が「伝統」なのか、その定義は不明確です。「道徳心」も同様です。教育の場で、これを教え、かつその達成度を評価することになると、一定の価値観を押しつけることになりかねません。更に、「我が国と郷土を愛する」ことを教育の目標とすることになれば愛国心を国家が押しつけることになります。これら教育の目標の法定は、憲法の保障する精神的自由権の侵害となります。
教育は、「国家100年の計」と言われます。現行教育基本法は、
1947年3月、憲法施行を前に、「この憲法の理想の実現は、根本において教育に力にまつべきもの」(前文)として、憲法と一体のものとして公布・施行された準憲法というべきものです。改正の是非を含め、憲法の改正に準じた十分な国民的な審議が不可欠です。

国民投票法案

憲法改正案は、両議員の3分の2以上の議員の賛成で発議がなされると、国民投票にかけられます(憲法96条)。
ご存じのとおり、自民党はわが国を「海外で戦争ができる国」にするための「新憲法草案」を発表していますが、国民投票法案の提出は、改憲を強行するための手段に他なりません。
国民投票法案は、民主党からも提出され、与党案共々継続審議となっていますが、とりわけ与党案は、公務員や教育者による国民投票運動を大幅に規制しています。国会の発議から国民投票までの期間が短いなど、国民が改憲案の内容を知り、十分に議論し検討する機会を奪う内容となっています。
  更に、「国民の過半数の賛成」という要件についても、投票率の制限さえ設けておらず、有効投票数の過半数という最も緩やかな基準を採用しています。これでは、国民の20%の賛成で改憲が成立することになりかねません。このような国民投票法案を成立させることは断じてできません.。

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