■ 公的ヘルパー打ち切り訴訟の問うもの        弁護士  原山 恵子
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1事件の概要
  私は、全盲の視覚障害者の梅尾朱美さんが名古屋市を相手取った「公的ヘルパー打ち切りに対する損害賠償請求訴訟」の代理人をしている。裁判を提起したのは今年の4月25日である。
視覚障害者である梅尾さんは、全盲の夫と長男の3人暮らしである、ヘルパーの援助なしには円滑な日常生活は送れない。そこで、1989年から、名古屋市の職員ヘルパーの派遣を受けていた。
梅尾さんは「支援費制度」が導入された2003年4月に名古屋市が開設した「居宅介護事業者」と「身体障害者居宅介護サービス利用契約」を締結した。掃除、買い物、郵便物の整理や書類の記入など、字の読み書きに関することを主として依頼していた。名古屋市の職員ヘルパーであれば、公務員であり、守秘義務を負い、安心して、仕事を任せることが出来た。
前記契約では、利用者からは中途解約は出来るが、事業者である名古屋市は利用者の債務不履行と「天災、災害その他やむを得ない理由により、サービスを提供することが出来ない場合」以外は中途解約できないことになっていた。
  ところが、名古屋市は、2005年3月末日で、公的ヘルプ事業から完全に撤退した。
その理由は、支援費制度の導入時(2003年)より、民間の事業者の参入が大いに進み量的・質的な点いずれにおいても市内のニーズを満たす民間事業者によるサービスが可能になったので公的ヘルパーの派遣事業を継続する理由がなくなったことと名古屋市の厳しい財政事情により廃止したとしている。

2この事件が問いかけるもの
名古屋市は公的ヘルパー事業を「この度名古屋市は平成17年3月末をもって区役所のホームヘルプ事業を廃止することになりました…。4月からは民間のヘルプ事業所からヘルパーさんがくるようになる」という一通の文書で廃止した。このような契約違反の暴挙が許されるのかを裁判で問いたい。
これまで、人間を相手にする福祉・介護の仕事は人間を相手にするという仕事本来の性質から営利目的の業務にはなじまないので公的業務とされてきた。ところが、現在勧められている公的業務を民間に委ねるということは国家、地方公共団体の任務を放棄するものである。これでは、「文化的で健康な最低限度の生活は守れない」という点を裁判で訴えていきたい。構造改革の名の元に障害者福祉の後退許してはならないという思いもある。

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