■ ブラザー工業発明対価訴訟判決について      弁護士  夏目 武志
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 1 発明の対価3700万円
去る平成19年4月18日、東京地方裁判所で、ブラザー工業の元社員Aさんと現社員Bさんが電子ラベルライターの発明を行った発明対価を求めた裁判で、ブラザー工業に3700万円の支払を命じる判決が出ました。
職務発明の相当対価請求訴訟といえば、青色発光ダイオードを発明した日亜化学工業の中村教授の裁判が最も有名です。東京地裁で200億円の支払を命じる判決が出て、高裁で6億1000円で和解したというニュースは世間の大変な注目を集めました。
本件で認められた3700万円という金額は、裁判所で認められた対価の金額としては歴代5位となるもので、今回の判決も新聞やテレビで全国的に大きく取り上げられました。

2 電子ラベルライター
電子ラベルライターは、「P−Touch」や「テプラ」の商品名で販売されており、あらゆるオフィスやお店などで愛用されているとても身近な製品です。これまでに売れた消耗品のテープの長さは地球60周分にのぼり、ブラザーが上げた売上は2000億円を超え、営業利益も500億円以上となっています。長年にわたり、人々のお役に立ち続ける発明をしたことがAさんとBさんの誇りです。

3 発明の対価についての法律
従業員が職務発明をした場合に会社に対して対価請求できるということは、特許法という法律に定められています。
なぜ、法律は、発明者が会社に対して対価請求する権利を認めているのでしょうか。
今日の文明社会は、様々な技術の累積によってもたらされています。産業を発達させ、私たちの暮らしをより豊かなものにするためには、新しい優れた発明がどんどん産み出されるような仕組みを作っておく必要があります。
そのためにあるのが特許という制度です。発明が特許査定されると、特許権者にはその発明を独占的に実施する権利が与えられます。この独占権により経済的な利益が得られるので、発明が奨励されることになります。その代わりに、発明が公開・実施されるので、技術の累積進歩が可能となるわけです。
そして、今日における発明の大部分は企業における従業員の発明です。企業が従業員から職務発明を譲り受けた場合には、従業員がその対価を請求できることとして、従業員がどんどん発明をすることを奨励しているのです。

4 子供達の将来の夢の1つに「発明者」が入る社会に
特許法により、会社は職務発明をした従業者に対し相当対価を払わなければならないとされているにもかかわらず、本件訴訟前にブラザーが支払っていたのは、Aさんに対して17万円、Bさんに対して8万円というわずかな金額だけでした。
残念ながら、日本では法的な権利がありながら泣き寝入りをしている発明者が多いのが実態ではないかと思います。
今回の判決で認められた金額は2人あわせて3700万円でしたが、それで500億円の利益(売上ではなく)を得られるのであれば、会社にとってもこれほどよい話はありません。
裁判は、Aさん、Bさんと、ブラザーの双方が控訴したことにより、舞台が高等裁判所に移されました。
産業を発達させ、私たちの暮らしをより豊かなものにする、という特許法の趣旨を実現するためには、従業員が法の趣旨に則った発明対価を受けられるようにすることがとても大切なことです。
「子供達の将来の夢の1つに『発明者』が入る社会に」という想いを胸に、AさんとBさんの誇りをかけた挑戦は続きます。


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