■ 経営承継円滑化法を上手に使おう!       弁護士  佐久間 信司
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 長年弁護士をしていると、中小企業の社長さんが亡くなると相続争いが起き「争族」「争続」の様相を呈する案件に関与することがあります。経営者が自分亡き後の経営承継に向けた対策を取ってなかったことが原因です。

  弁護士事務所の「営業」という観点からすれば、この手のお家騒動は経済的利益も大きいですから、解決したとき多額の成功報酬が貰えて美味しい仕事です。

  しかし私は、弁護士がいつまでも紛争の事後解決だけに甘んじていると、弁護士業界全体が社会進歩から落伍してしまうのでないか危惧しています。社会は弁護士に経営承継がらみの紛争予防スキームの策定・実行という、もっと創造的な役割を果たすことを期待しているのでないでしょうか。

  我が国の企業数のうち99.7%、雇用者数で70%を占める中小企業の経営者の引退時期が向こう数年間に集中しています。最近では中小企業は起業率より廃業率が上回り、このままでは日本経済の土台が危ぶまれます。

  中小企業の経営承継では、後継者による自社株の買取資金や納税資金の問題、相続税の軽減措置と並んで、相続争いを防止するための措置が重要です。この面を国が支援する経営承継円滑化法が昨年制定され、金融支援措置は昨年10月から、相続争いを防止するための「民法の遺留分に関する特例」も3月から施行されます。

  民法の遺留分に関する特例とは、経営者が後継者に生前贈与で自社株や事業用資産を承継させた場合に遺留分トラブルを未然に防止しようとする制度です。推定相続人全員が合意すれば生前贈与した株式や事業用資産を遺留分算定基礎財産から除外したり、株式評価を合意時に固定して後継者に価値増大分を取得させて、相続争いによる企業活動の停滞を予防します。この遺留分に関する民法の特例を具体的なケースに応用しようとする場合、多くの相続紛争に携わってきた弁護士が他の専門家にない強みを活かして相続人間の利害調整を適切に行い、コントロールタワーの役割を果たすことが重要なのでないでしょうか。私は中小企業の経営承継の分野に弁護士が積極的に関与してゆくことが時代の要請だと考えています。


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