<戻る>

MLBPA(Major League Baseball Players Association)視察報告
  
 私たち4人は、第一法律事務所開設30周年企画の一つとして、99年9月28日(現地時間)、アメリカ・ニューヨークのマンハッタンにあるMLBPA(Major League Baseball Players Association メジャーリーグ選手会労組)の事務所(マンハッタンの高層街にある非常にきれいなところでした)で、MLBPA次長のオルザ氏と懇談を行ってきました。
 日本のプロ野球選手は華やかなイメージでとらえられがちですが、実際には「球団の選手に対する強力な支配権の存在、統一契約書の強制による契約自由原則の否定」などにより、球団に対するプロ野球選手の法的地位は非常に弱い状態にあります。しかも、現在のところ、プロ野球選手に弁護士への代理人選任権が認められていないことから、弁護士が選手の「労使」関係に直接関与することは事実上できない状態にあり、ますます選手の法的地位を弱いものにしています。このようにプロ野球選手の地位については多くの法的な問題が存在するため、潜在的には選手の弁護士に対する需要が高いのではないか(今後高くなるのではないか)、また、将来的には選手側の代理人として弁護士が「労使」関係に関与する機会が増えていくのではないかと考えられます。そこで、将来を見越して、この分野について専門的に研究を事務所の30周年記念行事の一つとして行うことにしました。
 そして、その分野の先進国であるアメリカでメジャーリーグの選手と球団の労使関係の実態を自分たちの目で見ることができれば大いに参考になるのではないかと考え、実際に大リーグでの業務を行っている弁護士に話を聞いたり業務の一端を見学する目的で、アメリカ・ニューヨークに視察に行ったのです。

 この企画を実行する際しては、事前にスポーツ法学会の菅原弁護士や慶応大学の池井教授及びスポーツジャーナリストのマーティー・キナート氏の援助をいただき、「ニューヨークヤンキース」「ニューヨークメッツ」「MLBPA」とコンタクトを取りました。その結果、「MLBPA」は、シーズン終盤で忙しい時期であるにもかかわらず時間を割いてくれたので、懇談を行うことができたのです。
 「MLBPA」との懇談に際しては、現地在住の日本人(訴訟等の通訳をしている人)に通訳をお願いしました。

 「MLBPA」は、いわゆる企業内弁護士を複数抱えており、我々と懇談を行ったオルザ氏も元々は労働法が専門の弁護士資格を持っている人でした。
 このオルザ氏が非常に情熱的にアメリカ大リーグの実情を語ってくれたため、当初の予定時間を超えた懇談となりました。
 懇談では、
@ メジャーリーグでは、選手と球団との契約に際してはエージェントが交渉を行うが、このエージェントの大半が弁護士資格を有している。又、エージェントは「組合の承認を得た人でないとなることが出来ず、既に組合が球団に対して獲得した権利を侵すような内容の契約」はできないこと。
A エージェントを承認する基準はあるが、基本的には自由市場。エージェント希望者に対しては「選手に対して金員を払ってならない、球団から金員を受け取ってはならない、球団と利害関係があってはならい」という基準がある。又、エージェントは講習会に参加しなくてはならないし、上記の基準を犯した場合は、承認が取り消される。
B 球団は常に承認されたエージェントと交渉しなくてはならず、これを拒否することは出来ない。現在は、平均すると週に2人、年で100人程の申し込みがある(日本人も少しいる)。
C いずれは日本もアメリカと同じようになる。現在は、日本の選手会労組は力が不十分で球団を恐れていると感じるが、いずれは変わらざるを得ない。選手会労組が優秀なエージェントとともに権利拡大のために闘うことにより変わっていくだろう。
D アメリカでは1966年に組合ができた。当時は、球団からの反対が強く、選手の年棒は非常に低く、単年契約で他の球団と契約することも出来なかった。
 ところが、1975年に、一選手が球団が契約を履行しなかったことから訴訟となり、これを機会としてフリーエージェント制度が導入されれるなど、選手の権利が拡大していった。
 その後、選手会労組と球団側とは何度か紛争があったが(時にはストライキ等もあった)、いずれも全選手が結束することにより(選手は組合に入って球団と交渉することが自分達の為になると確信している)、選手会労組側が勝利を収め、選手の権利の拡大を獲得してきた。

 こと等が話されました。

 我々4人は、オルザ氏の話に大いに感銘を受けました。そして、日本のプロ野球選手も(その他のプロスポーツ選手も)、弁護士への代理人選任権が認められて、選手が弁護士を代理人として球団と対等の立場で「労使」関係について交渉することができるようになるためには、今後ともに研究・努力を行うことが重要であるとあらためて感じた懇談となりました。
                         (2000年新年号
                            弁護士 森田 茂
                            弁護士 稲垣仁史
                            事務局 村井秀樹
                            事務局 小林里美)