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 辺境の地への旅に憧れは持っていたが、もとより、英語はできないし、一人旅をする勇気もなく海外旅行といえば観光スポットばかりであった。ところが、このたび日本環境法律家連盟企画のおもしろそうなツアーの案内があり同僚の藤井弁護士と共に参加した。同連盟の活動的な弁護士諸氏はこれまでにも世界各地を環境問題をテーマにした視察ツアーをされているようであった。
 今回はカナダの北西海岸にあるクィーンシャーロット島、現地名ハイダグアイにおける森林破壊の現状視察と先住民ハイダ族との交流のツアーであった。クィーンシャーロット島はバンクーバー北西770キロの北太平洋上に位置し南北約300キロ、東西約100キロで北端の海岸からは遠くアラスカの島影も見える。自然がいっぱいである。海岸では砂浜を掘れば貝がいっぱい取れ、入り江まで鯨が遊泳し、空には白頭鷲が飛び交っている。「自然の楽園」と言われているそうだが頷ける。
 島の先住民がハイダ族である。サケなどの魚貝類を主食とする海洋漁労民族で巨大なカヌー作りやトーテムポールで知られている。トーテムポールの住居跡はユネスコの世界遺産になっている。1980年代には、ハイダ族は大企業による森林伐採の阻止運動を展開し一定の成果をあげている。
 黒潮の影響のためか、高緯度にありながら気候は比較的温暖で雨が多い。そのため、島にはトウヒやモミ、スギなどの原生林がまっすぐにそそり立っている。100メートル近くはあるであろう。日本では見たことのない巨木である。森の奥深くまで入ってみたが、林床にはいっぱいの苔が張りつき、原生林の幹にまで生え広がっている。苔いっぱいに覆われた巨木群の景観には圧倒される。
 しかし、対岸のカナダ本土のグレートベアの森の森林伐採が世界的な問題になっているが、この島の原生林の破壊も相当にすすんでいるようだ。軽飛行機で周遊したが、空からも島の各地で皆伐の爪痕が見えた。森林伐採を開始したばかりの現場にも案内されたが、成木,幼木の区別なく原生林を切りまくり、一帯は赤茶の土壌がむき出しになっている。成木は大型トレーラーで搬出し日本などに輸出し、幼木はそのまま放置されるのだそうだが雨で海岸まで流れ出すこともあるそうだ。
今回の9日間のツアーでは辺境の自然を十分に満喫できたが、他方でこの地までに森林伐採や魚貝類の乱獲が及んでいることを知り、地球環境破壊の規模の広がりやそのテンポの早さをあらためて痛感させられた。
      (2000年夏号 弁護士 三宅 信幸)