「とある日の事務局会議の一場面        覆面座談会 
 

 
A夫   今日は、その他の議題で、ニュース部から、日常業務のなかで事務局が困っていることなどを
     話し合う機会があったら取り上げたい。
     ということやで、フリー討論していてもらえんやろか。
     これは覆面座談会という形で載せてもらえるから、遠慮なしに話してもらえると助かるけれど…。
 
A夫   それじゃちょっと堅い話になると思うけど、事務局が関わりが多い債務整理事件全般にテーマを
     絞って話してもらえんかなぁ。う−ん……。
     昨今の債務整理事件の増加と併せて考えると、個人レベルでは「借りたものは返す」という
     モラルハザードいうんか、日常生活の緊張感みたいなもんが、なくなってしまっいるような気がする
     けれどその点、みんなの意見をききたいンだけど。
 
E美   私は「借りた者の責任」だけではなく、「貸す側の責任」もあると思うわ。
 
A夫   ほう、というと。
 
E美   だって、最近テレビを見ていると、ゴールデンタイムで大手消費者金融業者がコマーシャルを
     ガンガンやってるでしょ。
     あれを毎日見ていれば、お金借りるという後ろめたさはなくなっちゃうじゃない。
     最後に「ご利用は計画的に」という画面が出るけれど、あれは「借りたお金は返しましょうね」と
     変更すべきだと思うわ。
 
D子   私も同感、しかも、それに加え、何とかビットという大手都市銀行系の消費者金融会社も
     派手に宣伝をしているでしょう。
     一連のコマーシャルは、どんどん借りてくれと言っているわけだし、消費者の側からみれば、
     誰でも「返すしんどさは忘れて、簡単にお金が借りられる」という気持ちにさせられると思うわ。
     しかも、ある会社は「恋人のように貸してくれる?」と言ってる訳でしょ…。
     だから、今の債務整理事件増大の責任の一端は消費者金融業者にもあると思うわ。
 
A夫   なるほど、消費者金融業者のテレビコマーシャルについては、数年前からクレサラ対協では
     問題の一つとして取り上げているね。
     さて、我々は日常多重債務に苦しんでいる人の立場に立って仕事をしている訳だけれど、
     その視点から意見交換してみない?
 
E美   私の家は自営業だけど、父から「おまえは借金踏み倒しの手伝いをしているのか。
     俺は仕事はなくとも何とか遣り繰りして、銀行への返済をしているぞ」と責められ反論が出来ずに
     困っているの。
 
Bさん  確かに世間の人から見ると踏み倒しだけれども、日常的に多重債務者の方に係わるわれわれは
     もう少し別の見方できるンじゃない。
     例えば、ある人が多重債務に陥っていく過程をいろいろと聞いてみると、
     「借りたお金を返したいけどカネがない。したがって他の業者から借り入れた」と言うことだよね。
     ここの「借りたものを返そうとした」という面は、きちんと見ないといけないと思うんや。
 
C太   そうそう、それと前から言われている多重債務者は「被害者」という視点だね。
 
A夫   「被害者」とはちょっとそぐわないのでは…。

C太   多重債務に陥った人が、消費者金融業者から借り入れるきっかけは多種多様だけれど、
     多重債務に陥る過程、言い換えれば返済に追われる生活の中で、だんだんと家族を含めた
     周囲の人との人間関係を破壊してしまう例がよくあると思わないかい?

Bさん  そのとおり、借金をしていることを家族や周囲に相談することができない。
     そのストレスが高じて、ひどい場合にはウソを言うことが平気になってしまう例もあるね。
 
C太   正確に言うならば、多重債務者個人だけでなく、周囲を含めて複数の被害者を作り出す
     ということね。
     うちの事務局長得意の一面的三段論法だね、曰く「多重債務で家庭が崩壊し、
     家族が拠り所を失って犯罪に走る」一見加害者にみえるけれども、実は被害者だというヤツね。
 
A夫   多重債務処理の手続である破産申立の件だけれども、今年の我が事務所の破産申立は
     昨年の1.5倍で、名地裁も4000件を突破する勢いだけど、裁判所の対応なんかで変わって
     きたことあるかな。
 
Bさん  最近の裁判所は、免責不許可事由がなければ、無審問で決定する事案が増えとる。
     おそらく、個々の事件を
     検討することよりも大量の事件をどう処理するかで裁判所も悩んでるンだと思う。
     処理の合理化策が進められているような気がするなぁ。
     ある著名な弁護士が「破産手続」は司法改革が最も進んだ部分と言っとったけれど、
     そのとおりだと思うね、
     申立書が定型的になってきたことも社会的必要性の反映だと思う。
 
C太   だけど債権債務は法的に処理することができるけれど、先の人間性の破壊という点はどうかな。
     債務は免責されても、そのまま、また、消費者金融業者が大々的にコマーシャルを流す社会に
     送り出すことは大丈夫かなという不安を持つときがあるね。
 
A夫   だんだん話が大きくなってきたけれど、何か別のテーマはないかね。
 
Bさん  やはりヤミ金融対策だね。
 
C太   その話だけど、相談者がいうには、返済場所がスーパーの駐車場になっていて、そこに呼びつけて
     現金授受をするらしいよ。
     指定された時間に行くと、同様な人が駐車場にたむろしている、という話をきいたな。
 
Bさん  通常、金融業者には規制法があるけれども、彼らにはない。
     元々アウトローなんだから告訴・告発等を通じて世論を喚起し、社会的な動きを作る必要が
     あると思うんや。
 
A夫   さて、そろそろ中閉めといきたいンだけどが。
 
Bさん  しわ寄せは最も弱い部分に集中する。多重債務に陥るということもその一例だよね。
     現状は経済的弱者に何かの矛盾を押しつけていると考えてもいいんじゃないかな。
 
C太   そこから自分たちの日常業務の必要性がみえてくる。
     これが社会貢献につながればいいなと思う。
     そんなまとめでどうかな。

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