「今、司法が一大事です。」
 −弁護士費用の敗訴者負担制度−  弁護士 荻原 典子
   
 
 弁護士報酬の敗訴者負担制度とは、裁判で負けると相手の弁護士費用まで
支払わなければならなくなるという制度です。
 
相手に弁護士費用を出してもらえるなら、裁判を利用しやすくなるのでしょうか?
裁判には相手がいて、それなりに言い分があるものですし、どんなに勝つべき裁判でも、
証拠が足り なければ、勝てません。
通常の裁判は必ずしも勝てるかどうか、わからない場合が多いのです。
あの「組織的詐欺会社」と断罪された豊田商事事件でも、最初は被害者が負けてました。
あなたは、裁判で勝てるかどうかわからなくて、もしも負けたら最後に相手方の弁護士費用
まで負担しなければならないとしたら、それでも、裁判をするという気になりますか?
 
毎年2万から4万6000件は起こるといわれている医療過誤事件。
提訴されたのが1999年度の統計では639件。
そのうち勝訴は191件と、救済されるのは、わずかに一%です。
敗訴者負担制度が導入されれば、さらに泣き寝入りする人が増えるのは間違いありません。
最初は裁判では勝てる見込みがなくとも、敗訴覚悟で戦うことで、その問題点がマスコミなど
を通じて伝わり、世論の高まりや市民の活動などによって、勝訴の見込みが出てきたり、
法律が改正されたりした例はたくさんあります。
たとえば、過労死裁判では敗訴判決を重ねるうち、勝訴の見込みも増え、国の認定基準も
緩和されてきました。PL訴訟でも、敗訴判決を重ねるうちに、PL法の必要性が明らかに
なってPL法が制定されました。
もし、負けたら相手の弁護士費用まで負担させられるとしたら、これらの訴訟にチャレンジ
する人が果たしているのでしょうか?
 
敗訴者負担が導入されると、埋もれてきた被害、声なき声を届けて社会に問題を提起し
これまで認められなかった権利を認めさせ、また、多くの弱者を救済してきた司法の役割が
果たせなくなってしまいます。
 
現在、内閣に設置された司法改革推進本部の司法アクセス検討会で敗訴者負担問題が
議論されています。
問題なのは、検討会での議論では、導入を原則とし、上記のような政策形成訴訟や
行政訴訟、消費者訴訟等も例外としない方向で議論が進んでいることです。
敗訴者負担制度は市民をより裁判から遠ざけ、司法により社会を改善するチャレンジの
機会を奪うものです。
 
このままでは司法は死んでしまうも同然です。ぜひあなたの声をメールで司法改革推進本部
 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/index2.htmlに届けてください。
 また、署名にもご協力頂けますよう、お願いします

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