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「ちょっと待った!中部国際空港建設」 稲垣仁史

 いよいよこの夏(2000年)、中部国際空港の建設が本格着工される見通しとなった。もともと地元経済界の要望で進められてきた計画であるうえ、関連事業を含め開発事業費総額約1兆5千億円にものぼる大プロジェクトであるため、地元経済界や建設業界の空港に寄せる期待は非常に大きい。しかし、中部国際空港の建設計画には様々な問題点があり、このまま建設が進むと、地元住民や愛知県民は将来大きなツケを負わされる可能性が高い。
 新空港建設における問題点の最たるものは、環境庁も指摘しているように、いわゆる「前島」の必要性である。「前島」というのは、空港島対岸部、常滑市に接して埋め立てられる地域開発用地のことである。第一期工事における前島の埋立て面積は123fにも及ぶ。前島の開発を担当するのは愛知県企業庁であり、開発は公費で行われる。空港としての機能からみれば、前島は決して不可欠なものではない。土地利用計画において前島は、商業・業務施設用地をはじめ交通・流通施設用地になるとされている。企業庁は、ここに年間2千万人もの集客力のある大型商業・文化施設を造るとしているが、全く具体的な根拠に乏しいばかりか、その前提となる調査データ等は非常に杜撰なものである。また、商業地とするためには民間企業に進出してもらわねばならないが、土地の値段が高すぎ採算見込みが立たないことから、民間企業は進出に二の足を踏んでいる。前島のモデルとなっている関西国際空港の「りんくうタウン」は、現在全く採算が合わず、国の財政支援を受けなければならないほどの悲惨な状態となっている。前島がその二の舞となる可能性は相当高い。
 また、前島の埋め立ては、伊勢湾の海流に深刻な悪影響を与え海洋環境に大きなダメージを与える。さらに、空港島と前島の埋め立てに当てる土砂は、三河湾に面した幡豆町の山林を切り崩して採取するが、その規模たるや幡豆町の全面積の6%(町の全森林面積の10%以上)にも相当する広大なものである。これらの環境破壊も大問題である。
 このように、前島開発は、その必要性がそもそも疑問視され環境への悪影響も懸念されているものであるが、愛知県企業庁は、開港を愛知万博に間に合わせるため巨額の費用を投じてこれを押し進めようとしている。ただでさえ愛知県の財政収支が赤字に転じているこの時期に、このような採算性のない巨額の公共事業投資をすれば、そのツケが後々過酷な財政負担となって県民にのしかかってくることは必至である。また、環境悪化の影響を受けるのは地元民・県民にとどまらない。
 中部国際空港の問題は、まだ県民の間に余り意識されていないようである。しかし、できてしまってからでは遅い。着工されてはいても傷口の広がらないうちに、今、その問題点を県民がきちんと認識して空港建設の見直しを強く求めていくことが必要である。
     (2000年夏号)