「住民訴訟の変質を許さない」   弁護士 佐久間信司
   
 
 地方自治法による住民訴訟の構造が大幅に改変させられようとしている。
 
これまで名古屋市民オンブズマンのメンバーとして,住民訴訟を武器に,税金の無駄遣いの
是正・監視活動をしてきた私としては,通常国会で参議院に継続審議となる法案が廃案
となることを強く要望したい。
ここ数年来,各地の市民オンブズマンが税金の無駄遣いの是正を求めて提訴し,自治体の
公金の適正な支出に大いに貢献してきたことは衆目の一致するところでなかろうか。
住民訴訟が,お役所の官官接待やカラ出張・ヤミ手当の支給,議員の物見遊山的な視察
旅行や野球大会への公金支出など,お役所の不正を糺してきたことの意義は大きい。
また各地の談合賠償訴訟は地方自治体の公共工事の発注の適正化,透明性確保に大いに
寄与してきた。
 
 改正論者の主張は,自治体に違法な財政行為があった場合に住民が首長や職員個人を
被告として損害賠償請求できる現行制度は,職員に心理的負担をかけ,職員を萎縮させる
というのです。
改正案によれば,違法な財務会計行為があった場合,住民はまず地方自治体の執行機関に
対し「職員個人に損害賠償請求せよ。」という履行請求を求めねばならず,住民が勝訴した
場合に今度は自治体が職員個人を訴えるという2段階訴訟構造に変更されます。
 
しかしこれでは住民が直接違法行為をした職員に是正を請求する道が封じられてしまいます。
自治体のためと思って訴えたのに一次訴訟では住民と自治体が敵対関係になってしまいます。
これは住民にとっては納得がゆかない。また仮に一次訴訟で住民が勝訴しても二次訴訟で
自治体が職員個人の責任を厳正に追及できるか疑問があります。
馴れ合い訴訟を行う危険があるのに,住民は二次訴訟では何も口出しができません。
訴訟も長期化するでしょう。
さらに,この新しい制度だと住民が談合業者など第三者の責任を追及できなくなり,
逆に自治体が談合業者を庇う側に立つことを許してしまいます。
総じて住民の行政監視機能が著しく後退させられ,住民訴訟制度が骨抜きになってしまう
危険があります。
 
住民の為の制度を住民の意見もろくに聞かず勝手に変更し,首長や職員の利益だけを守る
考えはおかしい。
「公職にあるものの非違をただす仕組みは神経のようなもの。絶ってしまえば痛みはなくなるが,
知らぬ間に疾患が進行する。」との指摘に耳を傾けるべきではないでしょうか。

<戻る>