「憲法九条の危機」          弁護士 原山剛三
 
 
 
 2001年10月29日、テロ対策特別措置法が制定され、米軍のアフガニスタンに対する
 「報復戦争」を支援する自衛隊の活動が始まった。
 
 テロを防止・根絶する目的であれば、国連や国際機関の決定や要請とは何ら関係なく
 展開される外国軍隊が軍事行動に対して、日本が後方支援することができるよう法制化
 したものと云える。
  
 後方支援だから戦斗行動ではなく、憲法9条の禁ずる武力の行使にあたらない、という
 正当化が試みられたが、本当にそう云えるのだろうか。
 トマホークを発する戦艦、空爆機が発進する空母への洋上給油、武器・弾薬・食糧・
 医薬品の輸送・供給は、戦斗行動を直接支える軍事行動そのものではないだろうか。
 少くとも、それなくしては戦斗行為の遂行が不可能な支援は、「後方」と呼ばれようと、
 戦斗行為と同一視される軍事的行為であろう。
 相手方は、そのような支援をする国を自らの交戦国とみなし、反撃することが許される。
 NATOが米軍への支援を集団的自衛権の発動として位置づけたのは、支援が軍事行動
 それ自体、またはそれを補完する必要不可欠行動と認めたからであって、そもそも軍事行動
 でなければ自衛権の行使とは考えないであろう。
 NATOの支援と日本の支援に明らかな差異はないとすると、「後方支援」は軍事行動では
 なく、集団的自衛権の行使に該らないとする政府の説明は詭弁としか映らない。
 集団的自衛権は憲法9条の下ではその行使が許されないという政府の従来の立場を、
 実質上大転換させ憲法9条を骨抜きにする、悪法である。
 
 アメリカの「報復戦争」は一体許されるものなのだろうか。
 国連憲章は国際的紛争を平和的に解決する義務を加盟国に義務づけている。
 交渉、仲裁、地域的取り決めなど非軍事的方法をもって紛争を解決しなければならない
 のであって、軍事行動は例外的、暫定的にしか認められない。
 アメリカではビンラディンを一定の条件のもとに引渡すとのタリバーンの交渉へ向けた提案を
 拒否し、交渉は一切しない、との頑なな態度に終始して戦争へと突っ走った。
 憲章51条による自衛権の行使は、安保理がとる集団的措置までの暫定的なものであり、
 その措置がとられたらば、戦争行動をとることはできない。
 極めて不充分とは云え、国連がテロリストの資金凍結の措置やテロ実行犯、組織者に法の
 裁きを受けさせる為の共同の行動を決定した以上、自衛権の行使としての戦争は許される
 ものではない。
 日本の支援=参戦は国連憲章と憲法に明らかに反するものであろう。
 テロの防止、根絶、テロ実行犯に対する法的制裁、難民支援、アフガニスタンの復興など、
 平和国家を標榜する日本の平和的、非軍事的な役割こそが探求されなければならない。

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